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宮崎家庭裁判所 平成2年(家)2131号 審判

申立人 石田純 外1名

事件本人 石田貴之

主文

事件本人石田貴之を申立人石田純及び石田良子の特別養子とする。

理由

第1申立ての趣旨

主文と同旨

第2申立ての実情

申立人らは、昭和63年1月4日に婚姻届出をした夫婦であるが、申立人良子の実子である事件本人を婚姻時から夫婦間の実子と同様に養育してきたので、申立人らの特別養子とする旨の審判を求める。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所の申立人らに対する審問の結果、家庭裁判所調査官の調査結果及びその他の本件審理に表れた資料によれば、次の事実が認められる。

(1)  申立人良子は、昭和57年ころ、当時知り合っていた男性との間に性的関係を持った結果、昭和58年1月9日に事件本人を出産した。

(2)  その後、事件本人は、未認知の非嫡出子として申立人良子に育てられていたが、昭和62年6月に、申立人良子は、申立人純と知り合って恋愛関係になり、昭和63年1月4日、事件本人を連れて申立人純と婚姻し同居した。

(3)  申立人らは、婚姻した直後の昭和63年1月18日に、当裁判所に対し、事件本人を特別養子とすることを求める審判の申立て(当庁昭和63年(家)第2019号)をしたが、当時は、申立人らの夫婦生活の実績も少なかったうえに、昭和63年秋には、申立人らの間に子が出生することが予定されていたことなどから、一定期間後に再度特別養子縁組の審判を申し立てる予定のもとに、同年6月24日、上記審判の申立てを取り下げるとともに、事件本人を一日でも早く申立人らの戸籍に入籍したいという気持ちから、同年8月4日、事件本人を普通養子とする縁組をした。

(4)  そして、昭和63年8月9日に、申立人ら間の長男が誕生したが、申立人らは、事件本人と長男とをいずれも実子として分け隔てなく養育し、今回、当初に企図したとおり、特別養子縁組の審判を再度申し立てた。

(5)  申立人純は、地方公務員(県職員)をしており、収入面で事件本人を養育することに問題はなく、現在、主婦専業の申立人良子とともに、事件本人及び長男を順調に養育し、事件本人は心身共に健康な状況にある。

(6)  他方、事件本人の生理上の父は、妻子を有する者であり、事件本人の出生直後にいわゆる手切金を申立人良子に交付して、事件本人に関して今後一切の関わりを持たないことを誓約させており、これまで、申立人良子に事件本人と会いたい旨の電話が数回掛かってきたことがあるが、それ以外に申立人良子及び事件本人との接触は全くない。

2  以上に認定した事実によると、事件本人は、申立人らのもとで順調に養育されており、申立人らと事件本人の間に特別養子縁組を成立させるについて、両者間の適合性には問題がないと考えられる。しかし、本件では、事件本人が申立人良子のいわゆる連れ子であり、既に申立人らとの間に普通養子縁組をしている点で、民法817条の7が規定する特別養子縁組を成立させるべき要保護性の要件を満たすかどうかが問題となる。事件本人は、当初から実母の申立人良子に養育されているのであるから、事件本人が同条の「父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であること」という要件に当たらないことは明らかである。したがって、本件では同条の「その他特別の事情がある場合」との要件に該当するかどうかがもっぱら問題となるが、右要件は、特別養子縁組制度の趣旨からすると、縁組を成立させることによって養子となるべき者に養親の嫡出子たる身分を取得させるのみならず、実親との親子関係を断絶させることが子の利益に合致するかどうかを基準として判断すべきであると解せられるところ、いわゆる連れ子を養子とする場合において、養子となる者が非嫡出子であり、しかも未認知である場合には、特別養子縁組によって当該子に嫡出子たる身分を取得させ、生理上の父との未然的な法律関係を終局的に断絶させて身分関係の安定をはかることは、子の利益を向上させることが明らかであるというべきであるから、上記特別の事情がある場合に当たると解するのが相当である。

もっとも、本件の場合には、申立人らは、当初の特別養子縁組申立を取り下げた後事件本人と普通養子縁組をしており、事件本人は既に申立人らの嫡出子の身分を取得しているが、これは前記認定の経緯による過渡的な措置としてされたものであって、申立人らの本来の意図はあくまでも事件本人を特別養子とすることにあるから、本件においては普通養子縁組がなされていてもなお上記特別の事情の存在を肯定するのが相当である。

そして、以上に述べたところによれば、申立人らが、事件本人を特別養子とすることは、事件本人の利益のために特に必要があると認められる。

3  よって、本件申立てを認容することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 寺尾洋)

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